十勝川について調べていた時に気になったのでまとめておきました。
一応専門としている土砂水理の話なので少しマニアックです。
十勝川についてのみを読みたい方はダム建設後の十勝川の変化まで飛んでください。
ダムによる河道への影響
まず、前提知識として自然河道では河道内流路は時間の経過とともに必ず位置や形が変化することを知っておく必要があります。
computational-sediment-hyd.hatenablog.jp
その上で、ダムが建設、運用されると以下の現象が起こります。
- 流砂が遮断され、洪水の規模が小さくなる(ピークカット)。
- 主流路が動きにくくなる(流路の固定化)。
- 主流路がどんどん深く掘れていく。
- 主流路以外の部分(砂州、高水敷)の冠水頻度が減少し、樹林化が進行する。
- さらに、主流路が動きにくくなる(流路の固定)。
以降、2~4を繰り返す。
関連する資料を以下に紹介します。
- ダムによる下流河川への影響
ダム下流の河川環境改善に向けた環境放流に関する調査研究 平成24年度水源地環境技術研究所
- 流路の固定化、樹林化のプロセスの模式図(ダムきっかけではないですが)
北上川上流における河道分析について 令和3年度 東北地方整備局管内業務発表会
- 樹林化のプロセスの模式図
河川の樹林化原因に関する諸説のレビュー 土木学会 水工学委員会環境水理部会研究集会2014
- 流路の固定化のプロセス(ダムきっかけではないですが)
土器川河床安定化対策に関する検討 四国地方整備局管内 平成30年度 技術・業務研究発表会
- その他参考資料:ダムによる下流河道への影響等
国総研資料 第 521 号のダムと下流河川の物理環境との関係を分析する際に理解しておくべき日本のダムの基本特性
流路の固定化や樹林化が引き起こす問題として、礫河原や砂州などの物理環境や生態系を破壊することが挙げられます。これらは、ダムを取り除かない限り元に戻らず、ダムを取り除いても、回復には数10年の時間がかかると考えられています。
土砂還元や流水型ダム、排砂バイパスなどを使って、流砂の遮断を軽減することはできますが、それらの影響は気休め程度に過ぎません。
世界中では、このようなダム建設による負の影響を反省し、ダム撤去事業などが積極的に行われています。「Dam Removal」や「River Restoration」などで検索するとたくさんの情報がヒットします。ただし、注意するべき点は、ほとんどが小規模なダム(堰のようなもの)の撤去事例であり、大規模なダム(ハイダム)の撤去事例はほとんどないことです。
ダム建設後の十勝川の変化
本題ですが、十勝川のダム建設後の変化をみていきます。
十勝川
十勝川は1985年に十勝ダムが竣工しています。 下の航空写真の右は竣工後20年が経過した状況です。 典型的な流路の固定化、樹林化がみられます。
左:1974~1978年、右:2004年
札内川
札内川は1998年に札内川ダムが竣工しています。 下の航空写真の右は竣工後18年が経過した状況です。 それほど顕著ではないですが流路幅が狭くなってなり樹林が進行している状況です。今後さらに進行することが想定されます。
左:1974~1978年、右:2016年4月
- 参考資料:十勝川水系ダム一覧
十勝川水系河川整備基本方針の変更に係る説明資料 令和4年9月
当該分野の研究動向
気候変動とも関連して様々な影響による流砂環境の変化に関連する研究は例えば以下のように多くみられます。
River sediment is changing globally, impacting the stability of river systems and the ecological and economic systems that rely on them. New #SciencePerspective shows the current state of knowledge… https://t.co/NGLTvXZY89 pic.twitter.com/P8ljz7FFAn
— Frances Dunn (@Frances_Dunn) 2022年6月27日
Warming-driven #erosion and #sediment transport in cold regions
— Nature Reviews Earth & Environment 🌈 (@NatRevEarthEnv) 2022年11月8日
This Review discusses how increasing sediment fluxes & coastal erosion rates in cold regions are affecting food, energy and water security https://t.co/vBpLqHbymi
free: https://t.co/iQzT2YqgOy pic.twitter.com/ckd7WkvTgv
一方で、これらの研究は観測データを基にしたものが大半であり、しっかりとした物理モデルによる研究はほとんどみられないです。。 これは、 平面二次元(又は三次元)の河床変動計算は、長期計算を行うことが計算資源上難しいことが考えられます。 我々としても、現象解明のために、流れ、流砂、植生のインタラクションを長期間にわたり精度良く計算できる平面二次元河床変動モデルの開発は必要だと考えているところです。
おわりに
ここまでの話ではダムは不要かのように感じますがそんなことはなくて、特に利水面では重要な役割を果たしています。
ダムをつくると前述のような河道の変化が起こることを理解した上で改めてダムの必要性をいただければと思います。
私の個人的見解は、
We have to work with nature and not against it anymore.
です。(以下より抜粋)
参考図書
河川の土砂水理を物理的にしっかりと説明した書籍はあまりないのですが、以下が参考になると思います。