- オープンデータ(地形データ)とオープンソース(DELFT3D)によって、誰でも実河川の水理解析ができるようなった。
はじめに
近年、国土交通省や自治体から点群やメッシュデータなど、様々な形式の面的地形データが公開されています。このデータは地形情報の把握に使用されていますが、水理解析にはあまり利用されていないようです。
そこで本記事では、サンプルとして兵庫県の50cmメッシュデータを使用した水理解析を示します。今回はトレースしやすいように、オープンソフトウェアのDELFT3Dを用いた三次元解析を実施しました。
なお、当ブログでは過去にも面的地形データを用いた水理解析を行っていますので、興味があれば参照いただけますと幸いです。
computational-sediment-hyd.hatenablog.jp
兵庫県「全県土の高精度3次元データ」について(Copilot)
兵庫県は、全国初となる県全域の高精度3次元地理空間データを公開しています。このデータは、1mメッシュの点群データで、山間部についてはさらに詳細な50cmメッシュのデータも含まれています¹(https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk26/3dgeo.html)²(https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk26/hyogo-geo.html)。
公開されているデータには以下のような種類があります¹(https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk26/3dgeo.html):
- DSM(Digital Surface Model):建物や樹木などの地物の高さを含む地表面データ
- DEM(Digital Elevation Model):地物の高さを含まない地表面データ
- CS立体図:地形の微細な凹凸を表現する地図
これらのデータは、航空レーザー測量によって取得され、様々な形式で提供されています。利用者は、兵庫県のウェブサイトや「G空間情報センター」からデータをダウンロードして利用することができます¹(https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk26/3dgeo.html)²(https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk26/hyogo-geo.html)。
DELFT3Dとは?(Copilot)
DELFT3Dは、オランダのデルタレス社が開発した水理・水質シミュレーションソフトウェアです。河川、湖沼、沿岸域などの水域における流れや水質の変化を高精度にシミュレートすることができます。
今回はDelft3D 4を使用しました。
計算条件
計算範囲
標高、河床地形
計算範囲周辺の地形を陰影図で示します。 航空測量のため、河床地形の計測精度はそれほど高くないですが、砂州や落差工も解像できており、マクロな流れ場を把握する上では十分な精度かと思います。 なお、支川美濃川合流点付近の橋梁が変な形状で入ってましたので、後述する水理計算では地形の補正を行っています。
※拡大・縮小可能。 大きい図はこちら
計算格子
計算範囲は河道内(堤防の外側)として、下図のように設定しました。 計算格子の平面形は直交曲線格子を用いています。
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その他計算条件
- dt : 0.01min
- 流量:加古川6000m3/s、美濃川2000m3/s
- マニング粗度:0.030
- 移流項スキーム:Cyclic
- 鉛直方向格子:σ座標系10層:河床から2, 3, 4, 6, 8, 10, 12, 15, 20, 20%で分割
- 渦動粘性係数:水平:0.01m2/s、鉛直:k-εモデル
- 下流端:ノイマン条件勾配1/1000
計算結果
以降の計算結果と着目箇所を箇所を簡単に示します。
流速ベクトル
水面、河床、1/2水深の鉛直方向に3箇所の流速ベクトルを示します。なお、見やすくなるように全計算格子点から省いて図化しています。
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合流点付近を詳しく見ると鉛直方向で流速の向きが異なっていることがわかります。
流速コンター図
水面、河床の流速コンター図を示します。
本支川の流速差、合流点付近の面的分布の特徴がよくわかります。
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断面の流速分布
任意箇所の断面図を確認しました。 レンダリング箇所は、合流後の本川横断図:A-A'断面、支川縦断図:B-B'断面です。
A-A'断面
合流の影響により最大流速点が右岸側に寄っていることがわかります。
B-B'断面
合流地点周辺は落差工の影響により河床勾配が緩くなっているため、下流に向かって流速が小さくなっている状況がわかります。
全体の流速分布:Paraviewによる図化
Paraviewによる三次元レンダリングは、静的な図ではわかりにくいですが、動かして全体的な雰囲気を確認することができます。 ぜひ下記リンクから動く図を触ってみて下さい。
Web上で動く図はこちら : Paraview Glance
参考:Paraview Glanceによる表示方法:Exporting ParaView scenes to ParaView Glance
渦度(鉛直渦度)
河床底面の(鉛直)渦度を示します。 河岸沿い以外では、合流点地点の下流で渦度が大きくなっています。 土砂などの物質輸送を考える際は渦度についても留意する必要があります。
※拡大・縮小可能。大きい図はこちら
まとめ
- オープンデータ(地形データ)とオープンソース(DELFT3D)によって、専門家だけでなくやる気さえあれば誰でも実河川の水理解析ができるようなった。
- 解析結果から水位や流速などが定量的に把握できるため、現象理解につながる。
- 数値計算では、今後起こり得る大洪水も計算が可能であり、防災活動に役立つ。
- 洪水流解析(治水)のみでなく、利水、生態環境など幅広い分野での活用が期待できる。
参考サイト
- はてブロにインタラクティブなグラフを埋め込む:外部htmlのとりこみ CDNとかiframeとか - 趣味で計算流砂水理 Computational Sediment Hydraulics for Fun Learning
- pythonによる可視化はHoloviews一択 - 趣味で計算流砂水理 Computational Sediment Hydraulics for Fun Learning